このテキストは6-dim+のライブ公演を再現したものではありません。
あくまでも筆者が受けたインプレッションを再構築し編集したものです。
6-dim+の楽しさ、すばらしさを味わいたい方はぜひ、ライブへ。

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(敬称略)

北千住は、子どもの頃、地の果てだった。
東横線直通の日比谷線は北千住が終点。
それ以上向こうには行けない、果ての果てだった。

ところが、北千住は単なる目的地の一つになった。
線路は複雑に絡み合い、どこが地の果てだか分からなくなった。

そして人生で数度めの北千住に降り立った。

そこには「ありがとう家」と「ごめんね家」が住んでいた。

懸垂で鍛えた握力でおっぱいを鷲づかみにし(しかも会社の屋上でだ!)
“完璧な頷きを返す男”LEEを困惑させたカタヨセが
その手の感触も消えぬ間に、
「ありがとう!」と右手を高らかに挙げ
中央に飛び出す。

屈託ない善をまとったその顔。
どこか欺瞞に満ちた挙手。

すると北千住中に響きわたる声で
りょーちんが対峙する。
「ごめんねっ!」

探り合う二人。
相手は何者なのか。
「ありがとう!」とカタヨセがたたみかける。
すかさず「ごめんね!」とりょーちんが切り返す。

二人のシナプスが行き場を求めて彷徨っているのが見えるようだ。

繰り返される「ありがとう」と「ごめんね」。
会場は固唾を飲んで見守る。

やがてカタヨセが突破口を見つける。
「ありがとう」しか口にしたことのないカタヨセが
「ごめんね」しか口にしたことのないりょーちんの家に遊びに行くというのだ。

それは一大事である。
「遊びに行っていいの? ありがとう!」
「こんな家で、ごめんね!」

やがて両家の父・母(ありがとう家:LEE父、小田母、ごめんね家:渡父、なごや母)も揃い入り乱れての
人々の記憶にも新しい「ありがとう・ごめんねの合戦」が始まる。
2014年12月のことだ。
この年号は試験には出ない(キッパリッ)。
「気を遣わせてしまって、ごめんなさい」
「息子がお世話になりまして、ありがとうございます」

この合戦がどこに向かっていくのか。
激しい心理戦が続く。

やがてすべてを“破壊する男”LEEが進まぬ状況を打ち破るが如く一言を口にする。
「ご、ご、ごめんなさい」
ついにありがとう家の掟を破って、謝りの言葉を発したのだ。
その衝撃波はすべての人に一瞬にして到達する。

床におでこをつけて謝ってばかりだった渡にも波動が届く。
胸板が厚い分、衝撃も大きい。

そしてついに渡も自身の好奇心を抑えきれず
スカイツリーの上から飛び降りる心持ちで言葉を絞り出す。
「あ、あ、あ、あり、ありが、ありがとう!」
渡の全身にあふれる快感。ドーパミンの大量放出だ。

殻を破ったごめんね父は妻にも「ありがとう」体験を勧める。
しかし几帳面で律儀ななごやはなかなか踏み切れない。
辛抱強い渡の説得についに「ありがとう」を発するごめんね母。
悦びに打ち震える二人。

その場に広がる開放感。明るい兆し。

が、しかしまたもやLEEが予定調和を嫌って思わぬ方向に話を進める。
プチプチプチプチ‥‥‥
LEEの姿が足下から見えなくなり、やがて首、そして顔と消えていき
すべてがなくなる。
ありがとう父がこの世から消えてしまったのだ。

唖然とする面々。

ふと気がつくと、ごめんね父が、そしてごめんね母が次々と消えていく。
プチプチプチプチ‥‥‥

その不条理に立ち尽くすカタヨセとりょーちんの視線は
次に消えるかもしれないありがとう母の小田に釘付けになる。
観客も何かを期待している。

追い詰められる小田。
「ご、め、ん、な、さ、い」と言ってみる。
が、新しいレイヤーへの接続口はすでに閉じられてしまっていたのだ。
「き、き、消えないっ」
あまりの衝撃に崩れ落ちるありがとう母。

北千住にあった
ありがとう家は母子家庭となり、ごめんね家のりょーちんは天涯孤独となった。

「ありがとう」と「ごめんね」
「消える」と「消えない」
あるとない。

これはデジタル時代を揶揄した恐るべき物語だったのか。

北があるなら南もある。
私は南千住のデジタルとは無縁の居酒屋で
ホッピーを飲みながらこの物語を反芻することにした。

が、いくら飲んでも答えは見つからず、
結局、夜の部に戻ってきてしまったことは内緒の噂話なのだ。

<data>
東京・北千住「30代の(仮)」主催 ロクディム パフォーマンスLIVE
2014/12/13

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