竹林の向こうの蠢く気配。

ちょっと深めに酒を飲んでから、このビルの階段を上ってくると、今晩は少し軽めのものにしようと思う。そんなときにいつも注文していたのが、バンブーだ。これもあのキュービック・アイスで傾ける。ここのバンブーは、ダークシェリーを使っていて酸味とコクのバランスが何とも言えなかった。見た目はいっぱしのスピリッツなのだが、アルコール度数はすでに体内のアルコール貯蔵庫があふれ出しそうになっている身には優しい。あるいはまた、私はスターターとしてもバンブーをよく飲んだ。

この頃になると、私もそれなりにこのBARでくつろげるようになってきていて、一人でもカウンターに居座る時間が長くなっていた。そんなある時。先客にカップル一組という時があった。水商売の女性と金をもった中年男性。そんな雰囲気の彼らはカウンターの一番奥に陣取っており、私は彼らから距離を取りたくて入り口に一番近い席に腰掛けた。

カップルの前にはいかにもといった感じのロングカクテル。私はバンブーで、アミューズのフルーツや自家製練りチーズなどをちびちびやりながらぼうっとしていた。カップルの方も特段話すでもなく、静かな時間だけが流れていた。

やがて女性が奥の急な階段を上りはじめる。開店当初は二階のほんとうに小さなスペースにもテーブルとストゥールが置いてあって飲めるようになっていたが、今はそれもなくあるのは化粧室のみだ。彼女が階上に姿を消すと、今度は男性が追いかけるように階段を上がっていった。

二人はそれから三十分ほど戻ってはこなかった。(つづく)

第一話「かけがえのないBARとの邂逅こちら

第二話「マスターをやり込める女性の一言」はこちら