旨い酒は類を呼ぶ。

その日は大学時代の同級生が上京し、ここに連れてきていた。彼は水割りか何かを頼んでいた。私たちはオールド水割り世代だから、それは彼の頑なさの表れなのかも知れなかった。私は相変わらずマスター任せ。

彼と二人で思い出話に花を咲かせていると、女性を三人連れた白髪痩身の男性が入ってきた。彼の第一声を聞いて驚いてしまった。内容にではなく、そのちょっと鼻にかかった声色にである。

彼は滅多に会わない私の叔父だった。世田谷に住んでいる彼がこのBARに来ても何の不思議もないのだが、それが同じ日、同じ時間となるとそう確率は高くならない。

「ご無沙汰しています」とストゥールを降りて彼に近づきながら挨拶をすると、

「誰だっけ?」

これには驚いた。彼もここで私に会うと思っていないから尚更だ。名を名乗ると、「老けたなぁ」と一言。

その日、叔父とは簡単な近況をお互いに報告し合って、ここで会ったことは他言しないこととしようと約束した。彼の連れの女性三人の意味がよく分からなかったからである。

後日。マスターから、叔父が定年退職したことを聞いた。親戚の動向をBARで知る。妙なものである。(つづく)

第一話「かけがえのないBARとの邂逅」はこちら

第二話「マスターをやり込める女性の一言」はこちら

第三話「竹林の向こうの蠢く気配。」はこちら

第四話「反り返るカウンターに傾く美酒。」はこちら

第五話「ぴたりとはまるカクテルのちから。」はこちら